ネフローゼ症候群の治療などで用いられる免疫抑制剤シクロスポリン(商品名:ネオーラルなど)は、その病態生理上、高LDL血症を合併しやすいため、スタチン系薬と併用されるケースが少なくありません。
現在、添付文書上でシクロスポリンとの併用が「禁忌」とされているのは、リバロ(ピタバスタチン)とクレストール(ロスバスタチン)の2剤です。これら以外は「併用注意」となっています。
しかし、薬物動態のメカニズムと実際の血中濃度上昇リスクを考慮すると、「併用注意」のスタチンであっても、実質的には「併用禁忌」と同等に扱うべき薬剤が存在します。
本稿では、シクロスポリンと各スタチンの相互作用のメカニズムと、安全な併用選択について解説します。
スタチン系薬の多くは、肝臓の細胞膜にあるトランスポーター「OATP1B1」を介して肝臓に取り込まれ、効果を発揮します。
一方、シクロスポリンはこのOATP1B1を強力に阻害する作用を持っています。そのため、OATP1B1の基質となるスタチンとシクロスポリンを併用すると、スタチンが肝臓に取り込まれず血液中に滞留し、血中濃度が著しく上昇してしまいます。これが、筋肉痛や横紋筋融解症のリスク増大につながります。
下の表1は、各スタチンのOATP1B1への依存度と、シクロスポリン併用時の血中濃度(AUC)上昇率をまとめたものです。
【表1のここに画像を挿入】 (以前作成した、相互作用のまとめの表を入れてください)
表1から分かるように、フルバスタチン(ローコール)を除く多くのスタチンはOATP1B1の基質であり、シクロスポリン併用により血中濃度が数倍から数十倍に上昇します。 一方、フルバスタチンはOATP1B1の影響をほとんど受けないため、血中濃度の上昇は他のスタチンと比較して軽度(2~4倍)に留まります。
リバロとクレストールが明確に「禁忌」とされた背景には、開発段階でシクロスポリンとの併用試験が行われ、そのデータに基づき**「最低用量(1mg)を用いても、単独投与時の最高用量(4mg)を超える血中濃度に達する可能性がある」**と判断された経緯があります。
他の「併用注意」のスタチンは、発売当時に同様の試験が行われていなかっただけであり、「併用注意だから禁忌より安全」というわけではありません。
では、「併用注意」とされている他のスタチンは安全なのでしょうか? 前述の「最低用量での併用が、通常時の最高用量を超えるか」という基準で検証してみます。
下の表2は、各スタチンの最低用量に、シクロスポリン併用時の最大上昇幅を掛け合わせた際の想定血中濃度を、通常時の用量範囲と比較したものです。

この検証の結果、フルバスタチン(ローコール)以外の全てのスタチンにおいて、最低用量であっても、シクロスポリン併用によって最高用量を上回るレベルの血中濃度に達するリスクがあることが分かります。
例:リピトールの最低用量5mgに、最大上昇幅15倍を考慮すると、75mg相当の曝露量となり、最高用量40mgを大きく超えてしまいます。
シクロスポリン使用患者に対してスタチン系薬を併用する場合、添付文書上は「併用注意」であっても、多くのスタチンは横紋筋融解症などの重篤な副作用リスクを抱えています。
上記のデータに基づけば、シクロスポリンとの併用において、理論上最も安全域が高いと考えられる第一選択薬は**フルバスタチン(ローコール)**と言えるでしょう。その他のスタチンについては、たとえ「併用注意」であっても、実質的には「併用禁忌」に準じて慎重に取り扱う必要があります。
※本稿は情報提供を目的としています。実際の処方や治療方針の決定は、最新の添付文書やガイドラインを参照し、医師・薬剤師の判断のもと行ってください。
(出典・参考文献について) HPのフッターや記事の最後に、元のテキストにあった参考文献を記載することをお勧めします。
参考文献:
平田純生編『腎臓病薬物療法ベーシック』[じほう、2015]
日腎会誌2012;54:999-1005.
各薬剤添付文書、インタビューフォーム