薬剤師をやっていると、薬の適正な投与量を判断するために、腎機能や肝機能を考えることがよくあります。
今回は腎機能の評価指標である、eGFRやeCcrについてまとめたいと思います。
GFR(glomerular filtration rate)は糸球体濾過量という意味です。
腎臓の濾過機能がどの程度機能しているかを測るための指標になります。
イヌリンクリアランスを用いる方法がGFRを最も正確に求めることができます。
イヌリンは糸球体で濾過された後、再吸収や追加分泌がない事がその理由になります。
しかしながら、イヌリンクリアランスを測定するには大変な手間がかかるため、実臨床では現実的ではありません。
そこで次に腎機能の指標として考えられたものが、Ccr(クレアチニンクリアランス)です。
Ccrはクレアチニンを1分あたりどの程度排泄できているかを数値化したもので、腎機能が良ければCcrは高くなります。
ただし、クレアチニンは糸球体濾過後、尿細管からも追加分泌があるため、CcrはGFRよりも20-30%程度高くなる特徴があります。
しかしながら、クレアチニンクリアランスも蓄尿をする手間がかかるため、イヌリンほどではないですが、実臨床で測定されることは少なくなってきました。
そこで簡便に腎機能(GFR)を推測できる手法として、eCcrやeGFRが用いられるようになりました。
eGFRやeCcrのeは「estimate」の略で「推算」という意味です。
Cockcroft-Gault(CG)式が最も有名な計算式です。(推算Ccr=eCcr)
これにより、腎機能が推察できますが、問題点がいくつかあります。
まず、クレアチニンは筋肉量が多いと高くなる傾向があります。そのため筋肉質の方だと実際より腎機能は悪い数値がでてしまいます。
計算式には年齢と体重が組み込まれているため、高齢者は実際より悪い数値が、肥満体型だと実際より良い数値が出てしまうことがあります。
つまり高齢で肥満体型だとかなりややこしくなりますね。肥満の方は標準体重を代入して計算する等、患者背景を踏まえて考える必要があります。
eGFRの計算式は以下の通りです。
通常のeGFR(ml/min/m2)は日本人の平均的な対表面積(1.73m2)で補正されており、標準化eGFR(対表面積補正eGFR)と呼びます。
これは血清Cr値、年齢、性別で産出されるため、個々の体格差が考慮されておらず、体重に関わらず一定となります(体重の影響を受けない)
そのため、抗がん剤などの詳細な薬物投与設計の際は、体表面積未補正eGFR(個別eGFR)を用いる必要がある。
つまり厳密にはeGFRには、標準化eGFRと体表面積未補正eGFRの2種類があることになるため、混同しないようにする必要があります。
以下eGFRと表記するものは、「標準化eGFR」として扱います。
2つに共通していることが、血清Cr値の影響を受けるということ。
血清Cr値は筋肉量が多いと高くなる傾向にある。
そのため、筋肉量が多い人は見かけより、腎機能が悪く見えてしまう場合があります。
逆に寝たきりの高齢者のように筋肉量が少ない人は血清Cr値が低くなるため、見かけより腎機能が良く見えてしまう場合があります。
(糖尿病患者でも、尿細管障害によってCrの分泌(排泄)が増えてしまい、見かけ上血清Cr値が低くなる場合がある)
また、eCcrは体重が計算式に含まれているため、体重が大きいほど腎機能が良く見えてしまい、肥満には不向きである。
(eGFRの計算式にも(BSAの中に)体重が含まれているが、身長も加味されるため、eCcrよりは体重の影響は少ない。)
同様に、高齢者の場合、2つともに年齢が計算式に含まれているが、eCcrの方が年齢の影響を強く受ける傾向がある。
これらの観点から、最近ではeCcrよりもeGFRが使われる場面が増えてきている。
以下、注意点のまとめ
このサイトに腎機能評価をeGFRで考えた場合とeCcrで考えた場合に大きな差が出てしまった例が載っていますので、よろしければご覧ください。
腎機能(GFR)の評価としてはどちらも使えます。
薬物の投与設計にはeGFRもeCcrもどちらも使用できますが、薬剤の添付文書にはCcrでの投与量記載がたくさんあります。
薬物投与設計に使用するには、eGFRは個別の体表面積で補正する必要がありますが、Ccrはすでに個別の値です。そのまま使えますので、わかりやすいということが理由です。
eGFRを薬物投与設計に使用する場合は体表面積未補正eGFRとし、個別のeGFRを算出することで使用できます。
また、添付文書にはCcrで減量基準が表記されているのに、体表面積未補正eGFR(個別eGFR)をそのまま使用して薬物投与設計する場合がありますが、これにも理由があります。
薬物の治験データはほとんどが欧米で行われたものであり,血清Cr値の測定法が日本とは異なるJaffe(ヤッフェ)法であるという点です。
ヤッフェ法による測定は,血清中のみに存在し,尿中にはないビタミンCやピルビン酸にも反応するため,正確に測定される日本の酵素法に比し,血清Cr値は0.2 mg/dL(20~30%)高く測定されると言われています。つまり,実測CcrはGFRよりも20~30%高値であるはずが,血清Cr値も20~30%高値で測定されるために,相殺されGFR近似値となっているのです。そのため,添付文書表記がCcrであってもGFRに近似されていると考え,日本の酵素法で測定されたCcrやeCcrよりも個別eGFRを用いるほうが良いと言えます。
(eGFR<Ccr のはずが、 eGFR≒Ccr とみなせます。)
添付文書に記載されているeCcrの計算式にヤッフェ法で測定した血清Cr値を用いている場合のみ、この話が成り立ちます。
最近の添付文書では酵素法で測定した血清Cr値を用いているものもありますので、その場合は体表面積未補正eGFRを算出し、評価する必要があります。
このサイトに詳しく書かれていますので、よろしければご覧ください。
CKDの診断基準は以下の通りです。
・ 尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか、特に0.15g/gCr以上の蛋白尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)の存在
・eGFR < 60( mL/ min/1.73㎡ )
→1、2のいずれか,または両方が3カ月以上持続する場合をCKDと診断
参考文献)エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018
CKDの診断には、標準の体表面積1.73㎡で補正したeGFRを用います。GFRは腎臓の大きさ、つまり体格に比例するので、体が大きな人ほどGFRが高く、体が小さな人ほどGFRは低くなってしまうからです。
体格による差をなくして腎機能が良いのか悪いのかを評価します。
eGFRもeCcrも血清クレアチニン値の影響を受ける推算式となっており、筋肉量の多い方や少ない方では正確な評価がしにくい欠点がある。
そういった場合、実測CcrもしくはシスタチンCを用いた腎機能の評価が望ましいとされている。
しかしながら、シスタチンCは保険適応上、頻回に測定することが難しいため、eGFRやeCcrと合わせて評価していくことが良いと思われる。
日本腎臓病薬物療法学会HPにて、腎機能推算式を自動で行ってくれるので、併せて知っておいてください。